仮説検証の美しさ – 「右利きのヘビ仮説 追うヘビ、逃げるカタツムリの右と左の共進化」

この本を読むまで知らなかったのだけれど、カタツムリには殻が右巻きのものと左巻きのものがいるらしい。さらに言うと、世の中には、右巻きのものが圧倒的に多いらしい。何故偏っているかというと、同じ方向のカタツムリ同士の方が交尾が容易だから。ここまでが前提で、この本の主題は、なぜすべてのカタツムリが右巻きになってしまわず、不利なはずの左巻きのカタツムリが一定の割合存在するのか。この本は、この疑問に取り組んだ若い研究者のお話。

実は、タイトルにあるとおり、「答え」は、カタツムリを食べるヘビ(セダカヘビ)が、右巻きを食べるのに特化して進化したために、左巻きであることが逆に生存に有利になるから、というもの。この本の面白さは、いかにその仮説を科学的に証明していくかというディテールにある。著者が捕食者のヘビと共進化をしたのではないかという発想を得たのは大学の学部生のときだが、その後実に8年近く(修士・博士課程とポスドクの3年間)をこの問題の証明に費やしている。

例えば、野生のセダカヘビと捕まえたとして、その個体が右巻きのカタツムリを食べたか左巻きを食べたかは、どうやったら知ることができるか?このヘビは殻は食べないので、お腹の中に殻は残っていないし、そもそも貴重なヘビのお腹を割いてしまうのは避けたい。ネタバレをしてしまうと、ヘビの糞の中にカタツムリの歯(のようなもの)が消化されずに残っていて、それの表面構造はカタツムリの種類ごとに特徴がある。電子顕微鏡で糞に残された歯を調べることで、そのヘビが右巻きのみしかいない種類のカタツムリを食べたことが示せるのだった。この例に限らず、実際に手を動かした研究者だから書けるエピソードの集まりで、ディテール好きにはたまらない。

この本は、「フィールドの生物学」というシリーズの一冊なのだけれど、このシリーズは素晴らしくて、30代半ばから40代前半の生物学の若手研究者が、学生時代から研究者としてひとり立ちするまでの過程を自伝的に綴ったものが多い。自分が高校生、大学生で進路に迷っていたら、こういう本を読みたかっただろうなと思う。

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